図書館

 何がきっかけだっただろう。
 たぶん、ますます老いゆく祖父に何かできることはないかなあと考え、
文章を書くのが苦にならない私は手紙を閃いたのではないか。
 高校生ぐらいだった私に、年寄りの心に喜びをもたらすような話題が
あったとは思えない。それでも、問わず語りのような文章を綴っては、
一ヶ月か二ヶ月に一度ぐらいの間隔で送った。
 祖父からは、一年に一度ぐらい、はがきに大きな文字で返事が来た。
 今でも、あれは我ながら良き部類の振る舞いだったと思っている。
 祖父に返事を強要しなかったからだ。
 祖父が亡くなって終了したこの習慣は、やがて再開することになる。
今度の相手は叔母。
 私がパリに住んでいる時、叔母夫婦がパリにも滞在するヨーロッパ旅
行で来てくれることになった。
 ところが、週末にはいよいよ異国の地で再会、という時に、私は入院。
 パリを案内するどころか、土地勘のない彼らに病院まで見舞いに来て
もらう驚きの展開となった。
 私は、退院すると、その旨、手紙に書いて叔母に送った。叔母から返
事が来る。パリの暮らしをしたためたりして、また私からエアメール。
 そんな風に一旦始めてしまうと、帰国後もやめる理由がなく、今に至
っている。
 もっとも、私が好きで続けているだけ、と言った方がいいかも。
 叔母からも、毎回返事が来るとは限らないからだ。
 私とて、何も書くことがない、という時はある。それでも、何か見つ
けて書き始めると、意外にぽろぽろ書き深められる。読んでくれる人が
いると思うと、自分の考えや心情を文章で書き記すのが楽しくなってく
るのだ。
 近況報告を兼ねた独り言。私の趣味。
 叔母は、そんな私の格好の餌食になってくれているようなものだが、
たまに、手紙代わりに電話をくれる。
「今、主人は図書館に本を借りに行っているわ」
 という言葉を何度か聞いた。
 図書館かあ・・・。
 私の父と母は、図書館の本は誰が触っているかわからないから不潔、
と考える人達だった。
 それを理由に図書館を禁じられた記憶は、ない。
 ただ、叔母の言葉で図書館デビューを決意して以降、母に本を返しに
行ってもらう際に母からそう言われたことがあるし、我が家で図書館の
本を見たことがないという事実があるので、そこから父母の志向はこう
だ、と私が勝手に思い込んだ可能性はなきにしもあらず。
 なんにせよ、十年前、私は私の意志で図書館のカードを作った。
 今や常連、上客。
 けど、漫画も借りられるとは、ああ、二年前まで知らなんだァ。