アホの考え休むに似たり

 ステンレス製の腕時計は、バンドの長さ調節が必要。
 支払いを済ませたあと、ほかに行く場所があったので、とりあえず私
の腕に若干ゆるい程度の長さで調節しておくから、私が帰りに立ち寄っ
た時に正しく調整しましょう、ということになった。
 夕刻、準備されたのを付けると、腕をしきりに動かしているうちに文
字盤が腕の内側に回りそうになる。
 これでもよさそうだけどなあ。
 優柔不断な私の性格の出番である。
「どう思いますか」 
 服でも靴でも、何かを選ぶ時、自分自身の中に明確なこだわりがない
と、私の趣味も好みも何も知らない赤の他人に、かような質問をしてし
まう私。
 店員が、普通はそれではゆるいと見なすと教えてくれた。
 でも、さらに私は迷う。
 と、
「じゃあ、とりあえず短くしてみましょう。元に戻すのは簡単にできる
し」
 彼女が言い、私はいたく感動させられた。
 確かに、うじうじ考え続けていても埒があかない、時間の無駄。一般
的と見なされる長さに調節してみて、嫌なら、彼女の手を煩わすことに
なるけれど、取り返しはつくのだ。
 決断力があるっていいことだなあ。
 私は、普通はこの長さ、というのを試してみることにした。
 一週間後、文字盤の裏側の肌にあたるあたりが痒くなり、軽く掻くと
赤い色が尾を引く。
 私は青ざめた。
 金属アレルギーを発症したのか。
 もしそうなら、せっかく買ったのに、使えないことになる。
 壊れたスウォッチはバンドがくるくる回っていた。パーツが長くて、
あと一つ取ると、はめられなくなったからだが、肌が弱い私には、偶然、
それが私の最善になっていたらしい。
 そのスウォッチを店に持って行き、それと同じぐらいのバンドの長さ
にしてほしいと頼んだ。伸ばした長さは約1.2cm。
 結果的に初めに大雑把に調整してもらっていたのでよいことになった
わけで、あの時、もっとしっかり考えあぐねていれば、回り道せず正解
に辿り着けた、と考えられそうだが、それは違うだろう。
 やってみたからこそ、迷いなく判断がつけられたんだ。
 行動力って大切なんだなあ。
 腕時計を買うのに付随して、そんな重要なことを学んだ。
 ちなみに、私が買った電池式は文字盤の厚みが薄いのが特徴らしい。
時計自体も軽い。電波時計では不可能だとか。
 でも、電池は環境に悪い、と発想する場合には、私は手巻き時計を求
めるであろう私自身の気持ちを見極められた。
 一分や二分誤差があっても、ネジを巻かないと止まっても、私には許
容範囲なのだ。