らっきょう酢

 不定期に市が立つ。野菜、海産物、果物など、近隣の県からの産直品が
並べられる。
 先日、テントに近づいたら、トマト売り場のおっちゃんが、大きなトマ
トの袋入りを値引き宣言。
 吸い寄せられたが、視線は値引きされないプチトマトへ。
 なぜ、みんな、プチトマトを好むのかとおっちゃんが言うので、口の中
で完結するからかなあ、と私。中の柔らかいのがぐにゅっと出ても口の中
の出来事で終わり、うっかり口からこぼれて洋服を汚すこともない。
「こっちの方が美味しいのに」
 大きなトマトは皮がはちきれんばかり。
 スーパーマーケットだと、店頭に出された瞬間、すでに鮮度の格が低い。
なのにこの値段、と思い、それだったらとプチトマトに手が伸びる。
 私は大きいトマトを買った。
「らっきょう酢で食べるのが一番」
 とおっちゃん。
「えー。らっきょは嫌い」
 嫌いと言うな。
 その言葉は、作ってくれた人、あるいはそれを買ってくれた人に失礼。
好きじゃないと言え。
 まずいも同じ理由で、美味しくないと言え。
 小中学生女子が、嫌い、まずい、と言い放つ度、そう諭したものだった
が、その私が、らっきょだけは嫌いと言わせてもらうしかない。聞かれた
ら、だけど。
 おっちゃんが、らっきょの味はしない、甘い、と言うので、帰りにスー
パーでらっきょう酢なるものを買った。
 素直な私。
 私は、トマトは塩の方が好みだとわかった。
 らっきょう酢はらっきょを漬けるのが第一目的だからだろう、どかんと
大きな一リットル入り。しかも、原材料名を見たら、筆頭に果糖ブドウ糖
液糖。
 どうしたらいい。捨てるのは嫌だし。
 素直だった自分を悔やみたくなるが、美味しいと聞いて、やってみなけ
りゃ損と心が動いたのは事実で、こういうことにも損得勘定が働くんだな
あ。
 人は、すべて、損得勘定なんだなあ。
 実は、日々の食事が豪華である必要はない、ご飯、味噌汁、漬物が土台
になっていれば、というのは私も同感だったので、医者が提唱する痩せる
長生き味噌汁に興味が湧き、白味噌赤味噌、おろしタマネギ、リンゴ酢
という指定に従い、リンゴ酢を買い、試し始めていた。
 調味料は最低限を揃えるのみ。必要ならそれらを組み合わせて味を作り
出す。
 酢は無添加有機米酢。高いけど。
 それで幸せにやっていたが、ちょっと気を許すとこうなるんだなあ。
 そんなことを学ばされている今。 
 ああ、冷蔵庫の中には、市販のらっきょう酢、リンゴ酢。