覚悟

 たまに叔母から電話がかかってくる。
 一人暮らしの寂しさが極まると、私を思い出してくれるらしい。
 独身は都合良く扱われる、とひねて受け止めたりしない。どういう理由
であれ、求められるのは嬉しい。
 このところの叔母の話題は新型コロナウイルスだ。
 怖いから、なるべく買い物に出ない。
 帰ってきたらドアノブを拭く。
 買ってきた物は袋を拭きまくる。
 外出自粛要請が解除されても家に逼塞していれば、話題は毎回同じにな
るだろう。
「それでいいやん」
 と私。
 が、私もそうしているかと聞かれると、
「していない」
 叔母が息を呑む。
 叔母には徒歩圏内に住む娘がいる。よく一緒に買い物に行っていたが、
今はその娘や孫とスマホで連絡し合うだけだとか。濃厚接触になるのが怖
くて、叔母が拒否しているのだ。
 でも、電話なら安心。
 ところが、叔母がコロナの感染が怖いと話し始めると、娘は、
「じゃあ、毎日仕事に行っている私はどうなるん」
 すぐに話を遮るらしい。
 でも私はちゃんと聞くから、叔母は喜ぶ。
 しかも、私が叔母を理解するような相槌を打ったからだろうか。叔母は
期待したのかも。
 が、叔母のこだわりは尊重するが、私自身はそちら側にいないと私が表
明したものだから、叔母は混乱。これだったら、叔母の側にいないから叔
母の言うことやることに批判的な娘の態度の方が納得いったかも。
 でも、それだと、この世は敵か味方かの浅い二分類しかなくなる。
 ただ、
「そうするのが正しいとわかってるんよ。でも、できない」
 と叔母が言うと、またもや、
「それでいいと思うよ」
 と応じるも、私は苛立った。
 だって、出口を塞いでおいて、出たいけど出られないと言われたら、お
手上げ。
 出口は見えるが、出ないと決めた。
 あるいは、出口が見えたから、出ることにした。
 どちらを選んでも、自由だし正解。
 けど、選べないって何。
 覚悟はどこに行った。
 覚悟しなくて済む状況にあるってことなのだろう。で、暇だから、思考
をもてあそぶ。
 つまりは、それが今のあなたの幸せ。
 そんなことに気づかせてくれる叔母。
 ちなみに、マスクで顔がかぶれたので、インターネットで探して注文し
たと話したら、
「年寄りには無理」
 と言うので、
「だから言ったやん。私が叔母ちゃんの分のマスクも除菌スプレーも買っ
たって」
 と言ったが、じゃあ、久しぶりにランチにでも行こ、と私を誘ってくれ
るには至らなかった。