私は、真ん中に野菜室派

 ああ、やっぱり・・・。
 電気が切れるも復活してくれた十六年目の冷蔵庫。
 大音量と共に本体がぶるぶる震えていた現象もなくなり、あと数年は動い
てくれると思ったのは、素直にそう期待したというのもあるが、次に買うの
を検討するのが嫌で、そう信じようとしていた節はある。
 ところが、約三週間後の朝六時。
 トイレに立ち、そのまま起きるか否か迷いつつ、喉を潤し、冷蔵庫を見た
ら、扉の上の節電モードの緑色が消えている。前夜寝る前に点けたはずなの
に。
 扉を開けたら、中は真っ暗。
 冷気から察するに、寝てほどなく電気が落ちたのだろう。
 コンセントから電源プラグを抜き、二十分ほど待つことにしたが、今度こ
そ寿命だという予感しかしない。
 服を着替えて、冷蔵庫の中の食材を救うことにした。
 野菜を切って煮、鶏肉を炒めて投入。それでも残る大根は単独で煮る。豆
腐は味噌汁に。炊いて冷凍してあったご飯は、温めて、中に梅干しを入れて
おにぎりに。これで、その日の食事は準備できたことになるだろう。
 家電量販店でいつも担当してくれる人は午後からの出社だそうで、それま
でのあいだに、私はインターネットで冷蔵庫の下調べができる。でも、しな
かった。パソコンでもガラケーでも、入念に調べて比較検討してから店に行
く私にはあり得ないこと。緊急の度合いが高すぎて、やけっぱちになったの
か。
 それはある。
 だが、調べなくても大丈夫、という楽観はあった。
 事前に詳細に調べておかなくても、だから変な買い物をすることにはなら
ない。いくつか押さえておきたいポイントを確かめ、納得できたら、あとは
気分で選んでもいい、とわかっているのだ。選んだあと、同類の物を見なけ
れば、買った物が私自身の正解になる。
 それに日本の家電メーカーの物ならどれを選んでも大同小異。そんな圧倒
的な安心感もある。
 壊れた冷蔵庫のマニュアルを持って行き、それを基準に希望を述べ、店員
の説明を聞いて、一緒にどんどん選択肢を狭めてゆき、一つに決定。あとで
時計を見たら割と時間はかかったようだったが、私の感覚では、金持ちユー
チューバーが店で高い家具を適当にばんばん買っていくような軽薄さで、よ
い意味で爽快だった。
 搬入は、翌朝九時四十分。数日間は冷蔵庫なし、と覚悟していたので感激
で、フランスの友人達にメールで自慢しまくった。
 パリの百貨店で家具を買った時は、三ヶ月以上待たされたのだ。