日傘

 日傘は、柄を持つために片手が取られる。
 雨傘も同じ。
 でも、雨傘の代わりの雨合羽は嫌だが、日傘代わりの帽子は大歓迎。
 なので日傘は持っているが、使わなくなって久しい。
 捨ててもよさそうなものだが、見上げるとレースの花柄模様が星のように
見えるのがロマンチックで、捨てるなんて無理。
 さて今年、帽子を被っていても首の後ろと腕が炎症を起こすほどに日焼け
し、しかも帽子の中で頭が蒸し風呂状態になり始め、日傘に助けを求めるこ
とになった。
 二段折りで、畳む時は、伸ばしていた心棒を親骨の中に押し込んで短くす
る。
 ところが、ある日、伸びたまま動がなくなり、何度も何度も試して、やっ
と収まってくれたが、寿命が終わる前兆なのではないか。悲しい。
 近くのデパートに行く必要があったので、日傘の売り場に立ち寄った。
 店員が柄の頭の部分をコンコンと叩くと、すんなり縮む。二、三回繰り返
すも、不良はない。
 私はそんな風に小刻みに叩かないので、やり方が間違っていたのか。
 店員からまだ使えると言われて安堵のはずが、私はもし新しいのを買うと
したらと聞いた。
 日陰を作ってくれる範囲が広いから帽子より日傘、ときっぱり心変わりし
た私だが、このレースの日傘の機能はどうなのか。なんせ買ったのは十年以
上も前になる。
 私は、レースのデザインが気に入っていて、同じようなのがあれば迷いな
く買うと言う。
 店員は、今は傘の内側に特殊な生地を貼って遮光性を高めるので、どの日
傘も内側は真っ黒だと語る。その口調が心なしか優しいのは、私の気持ちを
慮ってくれたのか。
「私の日傘だと日傘の役目が果たせないってことなんですね・・・」
「真夏の前や後に使うのはいいと思いますよ」
 来る時、腕にレースの花模様が浮かぶのを、ああ綺麗、と眺めていた。
 花模様ができない箇所には布の縦横の織り目模様が見て取れて、それも素
敵、と見ていた私の、なんたる愚かしさよ。
 今の気候に合う日傘を求めるなら買い換えるしかないし、デザインはもう
二の次三の次。
 それでも、一級遮光生地のシリーズの中で一番心が惹かれるのを選んだ。
 偶然、日傘がセールになった初日であった。
 選んだ日傘の在庫を調べてもらったら最後の一本だということで、現物を
買い、差して帰る。
 なるほど影は真っ黒。
 日差しと熱を遮るので頭に風を感じると言われたのは、蒸し暑すぎてよく
わからない。
 秋になったら確かめよう。