目指すはフレッシュ

「ちょっと痩せた?」と聞かれた。
 一週間前に会った時から一キロ体重が落ちたところだったので嬉しいが、
たった一キロでもわかるんだと思うと、やはり自分の感覚よりも正しいの
は器械が弾き出すシビアな数値なのだなあ。
 五十グラム単位で測定できる体重計を買ったのは二ヶ月前。少しの増減
でも計測できると、そうなった理由を考えるようになるし、励みにもなる、
というテレビの通販番組の解説に頷けるところがあり、買いたいと思って
いたら、カタログ通販で見つけたのだ。
 医学的には、基礎代謝が最高だった若い頃より四、五キロの増加範疇で
あれば、まあ許せる、ということのようだが、放っておくと、折れ線グラ
フが上昇トレンドを描く一方になりそうな怖さを感じたわけである。
 ところが、いきなりリバウンド。
 夜の食事の質と運動が体重を制するという論の“運動”だけ手を抜いたか
らなのか。でも、それでも体重は落ちてきていた。それが、リバウンドは
するわ、無縁のはずの肩凝りには襲われるわ、しかも、背中も妙にだるい。
 で、これまた通販で買ってあった背筋ストレッチを久々に使ってみた。
背中のS字に合わせたアーチ型で、二列のローラーが背骨の両側を押圧し
てくれる木製品だ。
 すると即座にリバウンドが収まり、私はなんとなく理解した。
 食事や運動に気を配るのは、脂肪吸引などという外的対処療法と違い、
身体の能力に訴えかけるという意味で正統派だが、正しい姿勢・正しい動
きを取り戻すことは、地味だが身体に直結するもっとも根本的な対策とな
るのであろう。
 だって、背中が伸びると、文句なく気持ちがいい。
 その気持ち良きことがなぜ自然にできないのかと言えば、腹筋と背筋が
劣っているからだ。
 明治時代の写真を見ていて感心するのは、子供達が背筋をピンと伸ばし
て勉強するよう躾けられていることだ。そのように育った当時の子供達は、
老人になってからも矍鑠(かくしゃく)としていられる。しかし、そう訓
練されなかった世代は、自分で目覚めるしかない。
 歳を取って口の脇にできるほうれい線は地球の重力のせいというのが一
般論だが、顔のハリも実は背筋が支えていると聞くと、そうかも、と思い、
ますます身体への意識が強まる。
 美容整形やヒアルロン酸で綺麗なお顔になっても、年相応に猫背だと、
見ていて痛ましい。
 本当の若々しさは、動作の中にあるのだ。