思い込み

 去年、旅先のホテルで手にした地方新聞に、女性読者からの相談が載
っていた。
 心の病にかかって仕事を辞め、今は病気は治ったが、そのあいだに婚
期を逸し、こんな私のせいで母が肩身の狭い思いをしていると思うと情
けない、というような内容だった。
 うーん・・・。
 これって悩みになるようなこと?
 だって、母親が肩身の狭い思いをしていると勝手に決め付けているの
が、変。
 万一そうだとしても、人の感じ方を自分の思いどおりにコントロール
するのは100%無理だから、そういうことで悩むのは100%時間の無駄。
悩む価値もない。
 けど、この人、本当は、自分の気持ちを母親にすり替えているだけな
んじゃないかなあ。
 だとしたら、まずは自分自身の心をしっかり見極めることだろう。
 で、自分が今の自分の状態に苛立っていると認めれば、途端に脳は、
その状況から抜け出す方策を求めてフル回転してくれるだろう。
 婚期を逸したら、結婚は絶対不可能なのか。
 結婚は万人の人生にとって必須なのか。
 だいたい、婚期って何歳までを指すのか。
 自分の思い込みを一から見直すことも必要になる。
 やっぱり結婚は私の必然。
 そう考えるなら、積極的に見合いや婚活を開始すればいい。
 一人でも充実した人生を送れたら満足。
 だったら、さっさとその第一歩を踏み出す。
 どちらにせよ、「ああ、私は不幸なの」と暗い顔で座り尽くしている
精神状態にはならない。
 私は、
「別に結婚しなくたっていいのにねえ」
 一緒に旅行中の友に感想を述べた。
 こう発言したら、私が、できれば結婚しない人生を求めてきたことが
ばれるかも、と内心ヒヤッとしたけれど、その既婚の友は気に留めなか
った。
 が、今年に入って、
「結婚には興味ないし」
 私が明言せざるを得ない会話の流れとなった時、彼女はようやく勘付
いたらしい。
 次の電話で、
「結婚したら」
 と言われた。
 その次の電話でも。
 コレは苦手なの、と表明した相手に、「美味しいわよ。ささ、食べて」
と無理強いするような態度ではないか。
 彼女にとって、結婚をしない人生は失敗、ってことなんだろうな。
 つまり、長年、私のことを、結婚したいのにできない菊さん、という
目で見ていた。哀れみの目。
 それがまったく的外れだったとわかって、焦った。
 知らなんだァ。
 この友は、先日、私の言葉に泣いて電話を切った相手。
 私と彼女の最終章は、この時始まっていたのかもしれない。